
人類の歴史を大きく動かしてきた「火薬」。
その中でも、現代の兵器や産業に不可欠な存在となっているのが「無煙火薬」です。
黒色火薬に代わり、19世紀後半に登場した無煙火薬は、その名の通り、発射時の煙が少なく、燃焼効率が高いという画期的な特性を持っています。
誕生以来、現代においても銃器の装薬として活躍しているのが、無煙火薬のすごいところです。
そこでこの記事では、無煙火薬の歴史、成分、種類、そして取り扱い上の注意点まで、わかりやすく解説します。
無煙火薬(スモークレスパウダー)とは
無煙火薬とは、従来の黒色火薬に代わり、19世紀後半に開発された火薬の総称です。
黒色火薬に比べて発射時の煙が少なく、燃焼効率が高いため、現代の銃器や砲弾の装薬として広く使用されています。
無煙火薬は、主に以下の用途で使用されています。
- 銃器の装薬
- 砲弾の装薬
- ロケット推進薬
- 産業用爆薬
無煙火薬の主な成分と特性
無煙火薬の主な成分は、以下の通りです。
- ニトロセルロース
- ニトログリセリン
- ニトログアニジン
これらの成分は、いずれも硝酸エステルに属する化合物であり、燃焼時に大量のガスを発生させる性質を持っています。
無煙火薬の特性としては、以下の点が挙げられます。
- 黒色火薬に比べて発煙量が少ない
- 燃焼効率が高く、強力な推進力を得られる
- 燃焼後の残留物が少ないため、銃身のメンテナンスが容易
- 自然分解しやすく、安定剤の添加が必要
- 温度変化に敏感で、性能が変動しやすい
無煙火薬の種類
無煙火薬は、成分の違いによって大きく3種類に分類されます。
①シングルベース無煙火薬
主成分 | ニトロセルロース |
特徴 | 比較的温度変化に強く、安定した性能を発揮。高い命中精度が求められる用途に適しています。 |
②ダブルベース無煙火薬
主成分 | ニトロセルロース、ニトログリセリン |
特徴 | シングルベースよりも強力な推進力を得られます。高速弾に適していますが、銃身の摩耗(エロージョン)が大きくなる傾向があります。 |
③トリプルベース無煙火薬
主成分 | ニトロセルロース、ニトログリセリン、ニトログアニジン |
特徴 | 燃焼温度が低く、銃身への負担が少ないため、大口径の砲弾などに使用されます。無煙火薬の歴史 |
火薬の歴史:黒色火薬から無煙火薬へ
無煙火薬のルーツを知るには、火薬の起源であり、歴史の表舞台で活躍した「黒色火薬」について理解する必要があります。
1. 黒色火薬の誕生(6世紀~7世紀)
火薬が最初に登場したのは、6世紀~7世紀の中国だと考えられています。
最初の火薬は「黒色火薬」と呼ばれ、木炭、硫黄、硝酸カリウムを混合したものでした。
当初は爆竹などの形で利用されていたと考えられています。
性質としては湿気に弱いのが特徴です。
2. 黒色火薬の軍事利用(13世紀)
13世紀、モンゴル軍が兵器として黒色火薬を使用し始めました。イスラム世界への侵攻時には、投石機で火薬弾が使用されといわれています。
日本でも、元寇の際にモンゴル軍が「てつはう」という火薬兵器を使用しました。これらの兵器は、黒色火薬を詰めた容器を投擲するものでした。
3. 砲と銃の登場(14世紀以降)
やがて黒色火薬を筒の中で爆発させ、弾丸を射出する「砲」と「銃」が登場しました。
しかし、黒色火薬は燃焼後に大量の火薬カスと白煙を発生させるという欠点がありました。
また、燃焼速度が速すぎるため、銃砲の炸薬としては扱いづらいという問題もあり、まだまだ扱いにくいものでした。
4. 褐色火薬の開発(19世紀後半)
黒色火薬の燃焼速度の問題を解決するために、褐色火薬が開発されました。燃焼速度を改善するために、褐色火薬は、黒色火薬の木炭を褐炭に変えています。
しかし、褐色火薬はあくまで過渡的なもので、まだまだ課題を抱えていました。
5. 無煙火薬の登場(1884年)
ここでようやく、無煙火薬が誕生します。無煙火薬はニトロセルロースを主成分とし、燃焼時の煙とカスが少ないのが特徴です。
無煙火薬は、黒色・褐色火薬の欠点を克服する画期的な火薬でした。すなわち、「白煙が多すぎる」「火薬カスが大量に生じる」「保管が困難」という、これまで人々を悩ませてきた3つの問題を克服することができたのです。
1890年頃から広く使われるようになり、現代の装薬の主流となりました。
無煙火薬の取り扱い上の注意
無煙火薬は、自然分解しやすく、保管状態によっては発火・爆発する危険性があります。取り扱いには十分な注意が必要です。
- 高温多湿を避け、冷暗所に保管する
- 衝撃や摩擦を与えない
- 火気厳禁
無煙火薬は、その高い性能から軍事・産業分野で広く利用されていますが、一方で危険性も持ち合わせているため、安全な取り扱いが不可欠です。
まとめ
無煙火薬は、その高い性能から現代の軍事・産業分野において欠かせない存在です。
しかし、その一方で、取り扱いを誤ると大きな事故につながる危険性も持ち合わせています。無煙火薬の特性を正しく理解し、安全に取り扱うことが、その恩恵を最大限に享受するために不可欠です。
この記事が、無煙火薬に関する知識を深め、安全な利用に繋がる一助となれば幸いです。
【参考】令和3年度一般社団法人沖縄県磁気探査協会「火薬学の基礎」
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