本記事では鹿の解体について解説します。ご自分で解体する場合は、注意点を押さえていなければ食中毒につながる危険もありますので、注意点は必ずご覧ください。
また、感染症を防ぐために適した服装についても紹介しています。普段解体されている方も、再確認のためご覧いただけますと幸いです。
鹿の解体の手順
鹿を解体するには、以下の手順で行います。
- 血抜き
- 洗浄
- 内臓を取る
- 剥皮
- 分割
1.血抜き
まずは血を抜きます。止め刺しの際に、鎖骨の中心からナイフを刺すことで、心臓上部の頸動脈を切ります。獲物がまだ生きている場合、獲物の足や首にロープをかけて保定しておかないと、暴れ出す危険があるためご注意ください。
この時のポイントは、刺し入れ口をなるべく小さくし、血管以外の組織を傷つけないようにすることです。血管を切った後は、足から吊るす、傾斜を使うなどして頭側を下にし、血が流れやすい環境を作ります。
血抜きが十分でないと、肉が臭くなりクセの強いお肉になってしまうため、食肉にするのであれば特に重要な工程です。
2.洗浄
洗浄の際は、まず獲物の体表についた泥や血、ダニなどを洗い流します。洗浄の流れは以下の通りです。
- 汚水が流せる場所に鹿を寝かせる
- ホースで水を流しながら、デッキブラシでこする(高圧洗浄機があれば楽)
- 65℃ほどのお湯をかけて、ダニを殺す
- (可能であれば)お湯をかけて鹿の毛を抜いている(お腹周りを特に)
3.内臓を取る
洗浄が終わったら、いよいよ本格的な解体です。ロープやワイヤーを使用して、吊し上げた状態で行います。この時、後ろ足の太もも付近にハンガーをかけます。
内臓を取る流れは、以下の通りです
- 吊るした鹿の下に大きめのケースを置く(内臓を入れるため)
- 止め刺しの傷口から、肋骨の付け根に向け皮を切る
- 腹の皮を尿道口あたりまで切る
- 尿道を避けながら肛門付近まで切る(手で触りながら確認する)
- 反対側も同様に肛門付近まで切る
- 尿道を確認し、傷つけないように癒着している部分を剥ぎ取る
- 股関節の筋肉を切り開く
- 恥骨の軟骨を切断する
- 肛門周囲の皮を剥ぎ取る(直腸を傷つけないように注意)
- 胸部の皮を剥ぎ、肋骨の中心をノコギリで切る
- 肋骨を開き、肛門を持ったまま引っ張る(糞が出ないよう注意)
- 腹膜の癒着を外しながら、胃腸を出す
- 肋骨付近まで出せたら、横隔膜を切断する
- 内臓をケースの中に入れていき、最後に食道・気道を切り落とす
4.剥皮
次に皮を剥ぎます。この時、皮が内側についてしまうと不衛生になるため、必ず外側に引っ張りながら剥ぐことを意識しましょう。
剥皮は以下の手順で行います。
- ハンガーを吊るした足部分を一周切る
- 1で切った部分から、股間に向けて切り込みを入れる(左右共に)
- 皮を外側に引っ張りながら、足から首方向に向け皮を剥がす
(この時、白い筋膜はナイフで撫でるように切っていく) - 前足の脇まで来たら皮に切れ込みを入れる
- 頭と首の境目まで皮を剥いだら、頭部と頚椎の繋ぎ目を切り、頭ごと皮を取る
内部に血が溜まっているかもしれませんが、水で洗い流すのは極力避けましょう。細菌繁殖の原因になります。
5.分割
皮を剥いだ状態の鹿肉は、枝肉と呼ばれる状態です。この状態でも業務用として販売されていることがあります。鹿肉を調理するためには、ここから細分化していかなければなりません。
まずは大ばらしとして、以下の部位に分けます。
- 胴体
- 前脚
- 後脚
手順は以下の通りです。
- 前脚の関節に切れ込みを入れて、脚を折る
- 前脚の根本にある筋膜を切り、取り外す
- 腰の内側にあるヒレ肉を取り除く
- 腰の関節を切断して、胴体を切り取る
- 後ろ脚の根本に刃を入れ、大腿骨を切り取り外す
狩猟方法がわな猟の場合、足が内出血している、傷がついている場合があります。そういった部位は食用にできませんので、ご注意ください。
枝肉になった鹿肉の精肉方法
次に、枝肉になった後の鹿肉を精肉する方法を紹介します。
共通する注意点としては、内出血している(赤黒い)部分は取り除くことに注意しましょう。
後ろ脚
- 大腿骨の周りに刃を入れ、大腿骨を外す
- ふくらはぎを外す(ナイフの刃を上に向けながら筋膜・血管を切ると取れます)
- 肉の境目に合わせて「内もも」「外もも」「シンタマ」に切り分ける
後ろ脚は境目がわかるとシンプルに切り分けられます。もも肉がまとまって取れるため、調理しやすいことも特徴です。
前脚
- 肩甲骨(根本)から上腕骨(関節)部分まで切り開く
- ナイフを入れながら骨から肉を切り剥がす
- 上腕骨から頭骨(先端)まで切り開き、骨を肉から外す
前脚の肉はまとまって取れる部位がほぼなく、細切れになりやすいことが特徴です。筋も多いため、スライスやミンチなどにして活用することをおすすめします。
胴体
- 横隔膜を外す
- 骨の外側から指を入れ、ヒレを外す(外れにくい部分はナイフを入れます)
- 背中側の膜を切る
- ナイフの先端を背骨、左側(右側)はアバラ骨に沿うように切理、ロースを切り落とす
胴体は高級肉が揃っている部位です。細かい作業が必要になりますが、筋が少なく食べやすい部位になります。
鹿の解体時の3つの注意点
鹿を解体する際には、以下の3つの点にご注意ください。
- 事前に条例を確認する
- 適切なナイフを選ぶ
- 解体時は感染を防ぐ服装に着替える
事前に条例を確認する
都道府県や市区町村により、解体に関する条例が異なります。
特に、屋外での解体は一定の条件下のみで認められている場合もあるため、注意が必要です。山の中ではどこまでできて、何が禁止されているのかを事前に確認しておきましょう。
適切なナイフを選ぶ
動物の解体には、適したナイフを選ぶことも重要です。例えば、以下のような種類があります。
ナイフの種類 | 用途 |
剣鉈 | 止め刺し、血抜き |
スキナーナイフ | 皮剥ぎ |
ケーパーナイフ | 骨を外す、細かい作業をする |
狩猟用のナイフについて詳しくは、以下の記事で解説しています。選ぶ時の注意点についても解説しているので、あわせてご覧ください。
解体時は感染を防ぐ服装に着替える
鹿に限らず、動物を解体する時には衛生面に注意する必要があります。頭には不識帽子を被り、口にはマスクをつけ、手にはゴム手袋、エプロンや長靴は専用のものを用意するなどの準備が重要です。
これは、血液や糞を体につけないためです。動物の血液・糞は「動物由来感染症」の原因になります。鹿であればE型肝炎や、腸管出血性大腸菌感染症、Q熱などのリスクがあるため、解体時の服装には注意しましょう。
具体的な服装については次の項目で解説します。
解体時の服装
解体時の服装は以下の通りです。
- ゴム手袋
- ゴム長靴
- 防水性の前かけ
ゴム手袋は、可能であれば袖先まであるものをおすすめします。また、白や水色などの明るい色を選ぶことで、ダニの付着に気付きやすいためおすすめです。
前かけと長靴が一体になった胴長タイプのものであれば、さらに感染予防できます。必ず解体用の服装を用意しておきましょう。
また、あわせて黒色のゴミ袋を用意しておくことをおすすめします。切り分けた肉や廃棄物を入れるため必要であり、運搬中周囲の人を驚かせないためです。
まとめ
鹿の解体は、正しく行わなければ感染症の危険を伴います。また、条例違反になると罰則が課せられる可能性もあるためご注意ください。
正しく解体できれば、食肉として美味しくいただけます。鹿肉を使ったジビエ料理は自宅でもできるため、以下の記事を参考にぜひチャレンジしてみてください!
狩猟のギモン、YouTubeでお答えします
シューティングサプライでは、YouTubeチャンネルも運用しています。
「鹿を仕留める時のコツはある?」
「銃の値段が違うと何が違うの?」
「そもそも銃砲店の店内ってどんな感じなの?」
上記のような、実際のお客様から寄せられた質問に対し、動画でお答えしています。他のチャンネルには中々ない、現場のギモンも解説しておりますので、ぜひ参考にしてください。
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